小児外科

基本方針

小児外科医とは

小児外科医とは、簡単に言うと、小児の外科的疾患を専門的に扱っている外科医のことです。

成人同様、小児の場合でも、脳外科、心臓血管外科、泌尿器科、整形外科、形成外科等の専門科は確立されていますが、成人の外科と違って、胸部外科、消化器外科、乳腺外科などの細分化はまだありませんので、小児のあらゆる部位、あらゆる臓器、あらゆる疾患に対して、小児外科医が関わっていくことになります。

診断のための検査の段階から患児を診ていきます。
そして、手術を含めた治療はもちろんのこと、治療が終わった後も、長期にわたって(具体的には成人に達するまで)フォローしていきます。

患児を長期にわたってみて行くためには、一般外科医としての知識技術のみでなく、小児科医的なものも要求されます。
日本小児外科学会では専門医制度を採用しており、小児外科認定施設での一定の研修業績を必要条件として、小児外科専門医を認定しています。
小児外科専門医でなければ、小児の外科的疾患を治療できないということではありませんが、より質の高い医療を提供しようという意味で、小児外科専門医がいるのだと思います。

診療内容

小児外科で扱う疾患

小児外科では、新生児、乳児、幼児、学童期、思春期など、すべての小児期年齢層が治療の対象となります。胎児期より治療が始まることもあります。小児外科で扱う疾患は幅広く、例として部位別に挙げると、以下のものがあります。

頚部:先天性の嚢胞、瘻孔、甲状腺疾患、リンパ管腫など

胸部:食道閉鎖狭窄、横隔膜ヘルニア、肺疾患、縦隔疾患、気管気管支病変など

腹部:肥厚性幽門狭窄症、胃食道逆流症(GERD)、先天性腸閉鎖・狭窄症、腸回転異常症、壊死性腸炎、腸重積症、メッケル憩室、ヒルシュスプルング病、直腸肛門奇形(鎖肛など)、胆道閉鎖症、胆道拡張症(総胆管嚢腫)、門脈圧亢進症、胆石症、膵疾患、脾腫を来す疾患(遺伝性球状赤血球症、ITPなど)、卵巣疾患、外鼠径ヘルニア、臍ヘルニア、先天性腹壁異常(臍帯ヘルニア、腹壁破裂)など

疾患についての簡単な説明

新生児期・乳幼児期の嘔吐

新生児期に胆汁性嘔吐がみられたら、腸閉鎖、腸回転異常症および中腸軸捻転(以下中腸軸捻転)、ヒルシュスプルング病、鎖肛などの先天性疾患を強く疑う。これらほとんどの疾患に対して手術が必要となる。
特に、中腸軸捻転は、時間がたつにつれて腸管の大量壊死へと進行し、生命に関わる危険性の高い疾患なので、迅速な対応が要求される。胆汁性嘔吐をきたすほとんどの疾患は腹部膨満となるが、中腸軸捻転では、腹部は平坦かむしろ陥凹していることが多く、診断の手がかりとなる。特徴ある上部消化管造影検査所見(corkscrew sign)や超音波所見(whirl pool sign、渦巻きサイン)があれば、本症の確定診断となるが、この疾患を疑うのなら、すぐに小児外科あるいは新生児開腹術のできる施設へ紹介をしなければならない。

乳幼児期の胆汁性嘔吐

乳幼児期の胆汁性嘔吐で、遭遇する頻度の高い疾患は、腸重積症である。典型的な腸重積症は、間歇的腹痛やイチゴゼリー状便などの症状もみられ、診断はさほど困難ではない。腸重積症は、小児科医による高圧浣腸整復によって完治することが多いが、来院時に胆汁性嘔吐が見られる場合には、腸閉塞がかなり進行した状態と考えられ、高圧浣腸では整復困難なことが予想される。小児外科医への早めのコンサルトが望ましい。乳幼児期の胆汁性嘔吐のその他の原因として、頻度的にはさらに低いが、中腸軸捻転やヒルシュスプルング病など先天性の疾患や外鼠径ヘルニア嵌頓等が挙げられる。いずれも小児外科への紹介が必要である。

非胆汁性嘔吐

小児の非胆汁性嘔吐としては、緊急の外科的処置が必要としない小児科的な疾患の頻度が多くなる。ウイルス感染による上気道炎や急性胃腸炎に由来するものが大半であり、制吐剤、輸液などの保存的治療で改善する。その他の疾患としては、髄膜炎、中耳炎、尿路感染症、敗血症など感染症、ミルクアレルギーなど小児科的な病態があり、いずれも原疾患の治療によって改善する。

新生児期乳幼児期の非胆汁性嘔吐

新生児期、乳幼児期に非胆汁性嘔吐をきたす小児外科の代表的な疾患として、胃食道逆流症、肥厚性幽門狭窄症が挙げられる。

胃食道逆流症

新生児は、胃食道逆流(gastroesophageal reflux, GER)が起こりやすい構造をしている。ほとんどの新生児が、哺乳後にミルクを嘔吐することがあるが、体重増加は良好であり、呼吸器症状も見られない。
この場合のGERは、体重増加不良、呼吸器症状を有する様な、いわゆる“GERD(gastroesophageal reflux disease)”とは区別して考えるべきである。GERは、通常は1才頃までには改善するといわれており、特別な治療は不要である。一方、GERDの場合は、治療が必要となる。
小児のどの年齢層であれ、GERDが疑われる場合には、小児外科への紹介が必要である。臨床症状、上部消化管造影検査、24時間PHモニター検査などで診断を確定し、治療方針を決定している。

肥厚性幽門狭窄症

乳児期にミルクを嘔吐する小児外科の代表的疾患として、肥厚性幽門狭窄症が挙げられる。典型的な臨床像としては、健常に出生した男児第1子が、生後1カ月頃よりミルクを嘔吐しはじめ、嘔吐は次第に噴水状となる。
オリーブ様の腫瘤を触れ、超音波検査で肥厚した幽門筋が描出され、診断は容易である。アトロピン療法で症状が改善することがあり、必ずしも全例が外科的治療の対象となるわけではないが、診断が遅れると、電解質異常、低栄養状態となって重篤となるので、注意が必要である。

その他の嘔吐

非常に稀ではあるが、先天性食道狭窄症や十二指腸狭窄症などの先天性疾患が嘔吐の原因となることがある。これらは、ミルク哺乳時期には嘔吐がなく、離乳食として固形物が始まる5〜6カ月頃より嘔吐が始まる。
それまでの発育発達には問題なく健常に見えるので、しばらく経過観察されるが、嘔吐は続く。1才頃になって、原因不明の体重増加不良や頻回の誤嚥性肺炎ということで紹介されてくる場合がある。上部消化管造影検査で確定診断となり、外科的処置が必要となる。長期間続く嘔吐や体重増加不良を伴う嘔吐には、小児外科的疾患が隠れていることがある。

血性嘔吐

血性またはコーヒー残渣様嘔吐は、食道や胃での出血を反映している場合が多い。頻回に嘔吐したあとの血性嘔吐は、マロリーワイス様の機序が考えられる。栄養チューブや胃管が留置されていれば、これによる胃壁の損傷も考えられる。
GERDであれば、逆流性食道炎の増悪が考えられる。年長児であれば、潰瘍性の病変が疑われる。いずれの病態でも、出血が続けば、貧血が進行し、全身状態の悪化が予想される。早めに小児外科へコンサルトした方がよい。

外来表

スタッフ紹介

福里 吉充
都筑 行広
伊江 将史

診療実績

2008年から2011年までの小児外科手術症例(15才以下手術症例)については、一般外科・消化器外科ページの診療実績を参照にしてください。

新生児手術症例(2006年4月1日〜2012年3月31日) 68例

学会発表・論文発表

2012年学会発表

2012.5.14
第49回日本小児外科学会学術集会 横浜市
Damage control surgery にて救命した小児重症肝損傷の2例

2012.5.19
第49回九州小児外科学会  佐賀市
mesenchymal chondrosarcomaの一例

2012.6.1
第26回日本小児救急医学会学術集会  東京都大田区
盲腸軸捻転症の一例

2012.11.2
第69回直腸肛門奇形研究会  静岡市
PSARP後の巨大直腸に対してtaperingを行った一例

2012.12.2
第54回日本小児血液・がん学会学術集会  横浜市
A case of mesenchymal chondrosarcoma

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