ご挨拶

ごあいさつ

プログラムディレクター挨拶

2023年11月より、本竹秀光先生の後任としてハワイ大学卒後医学臨床教育事業団プログラムディレクターに就任致しました内原俊記です。

戦後の沖縄県の極度の医師不足を解消しようと1967年に沖縄県立中部病院で開始された卒後研修事業はまもなく60周年を迎えます。
現在、沖縄県全体の医師数は全国平均に達していますが、医療の量と質は地域による不均衡があり、離島を含む医療供給体制が地域個別のニーズを満たすには未だに至っていない現状があります。

他県では地域の医学部などから医師を確保することで医療をまずは量的に確保するのが通常ですが、県内に医学部を持たなかった沖縄県はハワイ大学に委託して県内で医師を育てるという大英断を敢行しました。
ハワイ大学から派遣された医師団11名は直接の診療はしないOff-duty staffとして第1期の研修医8名を臨床教育することに専念したのです。こうして、採算や困難を度外視して、良い医師を育てることのみを目標に、多額の予算を惜しみなく投資するという贅沢な制度は、医師の頭数をそろえるだけでなく、質的な水準も高いレベルで標準化することを、最初から意図していたわけです。そうした中で「教えることが当然」という雰囲気が中部病院全体に生まれたのかもしれません。
ハワイ大学医師団の団長であったNeal Gault教授は、研修医に給与と院内の居住スペースを確保した上で、将来の専門にかかわらず、「心肺蘇生、正常分娩、内科、外科、小児科、産科の救急初療対応ができる」ことを医師としての最低条件として研修医に要求されました。米国では普通とされていた標準とはいえ、当時、大学医局で卒業直後からいきなり専門性を追求する医師がほとんどであった日本ではあまりに画期的で、理解されなかった可能性があります。Gault教授は2年で沖縄を離れられましたが、米国での専門研修を終えて帰沖され中部病院のスタッフでいらした外科の真栄城優夫先生、内科の宮里不二彦先生を中心にGault教授の最初の方針は歴代の研修医に脈々と受け継がれて今に至っています。
理想を高く掲げ、一切妥協せずに医療や研修医教育を長年継続してきたのが沖縄県立中部病院で、急性期医療を「決して断らない救急―入院軸」で円滑にすすめながら、研修医教育を現場で行うモデルとして国内のトップランナーとして高く評価されてきました。

History taking(病歴聴取)とそれを踏まえたPhysical examination(身体診察)で検査にたよらずに診断にたどり着こうとする姿勢は研修医から指導医まで今も一貫しています。画像や検査に頼る部分を最小限にとどめることは、正しい診断に至る必須の要件で、診断戦略として最も興味深い手段であるという認識が研修医にもスタッフにも共有され続け、当院の基本姿勢として根付いています。初期研修でこの姿勢が身につきさえすれば、その後の専門研修がより深まるだけでなく、離島、海外や災害時の医療支援、交通機関内での急変などにも慌てずに幅広く対応できる腰の坐った医師として、その後のキャリアの幅を拡げてくれます。
私自身は1982~4年の2年間内科研修医としてお世話になったのですが、2023年に戻っても、臨床教育の根幹はほとんど変わらないのに驚きました。屋根瓦式の研修は現在多くの病院がめざしていますが、スタッフが大学病院などから派遣され、交代し続ける中では、屋根瓦の色が異なるモザイクで、研修内容を長期にわたり標準化することは容易ではありません。指導医の多くが、当院の研修医出身である当院では、診療科が異なっても屋根瓦の色は統一されているので、初期研修には大変有利です。屋根瓦の色がそろっていれば、患者さんの引継ぎも円滑で、チーム医療にもよくなじむので、今後の働き方改革でも対応を容易にしてくれるものと期待されます。

一人で患者さん全体を診て判断、対処できることを一貫してめざしてきた沖縄県立中部病院の研修プログラムは、救急現場での研修の充実や離島医療の充実を進める大きな原動力にもなり、拡大する在宅医療の場でも既に大きな力を発揮しています。
さらに、そうした診療自体に積極的に興味を示す若手が出現するに至り「島医者養成プログラム」が中部病院本体のみならず、宮古病院独自の初期研修プログラム「パイカ星」、八重山病院独自の総合診療専門研修プログラム「南ぬ島(ぱいぬしま)」が現場から複数立ち上がってきたのは沖縄県ならではの宝です。
全身を診て判断、対処するという基本姿勢は、離島や在宅でこそ、さらに輝きを増すことに気づき始めた若手を、今後どのように育てて、現場に活かすかが求められています。沖縄ならではのニーズに応えようとする中で生まれてきたこうした瑞々しい潮流を、沖縄県の財産として育てながら、高度な医療技術にも追随することを沖縄県や県立病院は求められる時代になっています。
当院の研修事業は当初の医師不足という量的問題が解消された後も、患者さん全体を診て判断、対処できるという方針を今後も貫くことで、在宅、高齢者、認知症など複合的な問題を抱えた患者さんにも柔軟に対応できる医師を育てることをめざしています。

当初、米国から教官、知識を導入することでハワイ大学事務所は沖縄県立中部病院の研修の礎を築いてきました。その輝かしい伝統を引き継ぐだけでなく、現場から生まれつつある新たな潮流をさらに発展させ、沖縄ならではのニーズに応える上でも、ハワイ大学事務所の役割は今後ますます大きくなっていきます。
今後とも益々のご支援をよろしくお願いいたします。

沖縄県立中部病院 ハワイ大学卒後医学臨床教育事業団
プログラムディレクター
内原 俊記

40年後の原点回帰―neurology consultant-として

略歴
1982東京医科歯科大学卒業
1982-1984沖縄県立中部病院研修医(16期、内科)
1984-1986武蔵野赤十字病院(内科・神経内科)
1986-1988旭中央病院(内科・神経内科)
1988-1990東京都精神医学総合研究所神経病理研究生
1990-1997東京医科歯科大学神経内科助手 
1994-1996サルペトリエール病院(パリ)神経病理研究室留学(1995-96 フランス政府給費留学生)
1997-2011東京都神経科学総合研究所 研究員 (神経病理)
2011-2018東京都医学総合研究所 脳病理形態研究室長(定年退職)
2018-2023新渡戸記念中野総合病院 脳神経内科臨床部長
2018-現在東京医科歯科大学 脳神経病態学(脳神経内科) 特任教授 2023-同臨床教授
2021-現在順天堂大学 神経学 客員教授
2023-現在沖縄県立中部病院 ハワイ大学卒後医学臨床教育事業団ディレクター
専門医:総合内科、脳神経内科、認知症
2005-現在Acta Neuropatdologica 編集委員
2010-現在Neuropatdology 編集委員
2010-現在脳と神経 編集同人
2013-2017Acta Neuropatdologica Communications(handling editor)
2018-現在Free Neuropatdology編集委員

プログラムディレクター挨拶

Message from the John A. Burns School of Medicine, University of Hawaii

Junji Machi, MD, PhD, FACS
Professor of Surgery
Director of Japanese Affiliated Programs, Office of Global Health

It is my great pleasure and honor to have become a new University of Hawaii director of Postgraduate Medical Education Program at Okinawa Chubu Hospital, succeeding to Dr. Satoru Izutsu. On behalf of John A. Burns School of Medicine (JABSOM) and Dean Jerris Hedges, I would like to extend my warmest Aloha and congratulations on the 50th anniversary of this program, celebrated in Nov 2017. With 50 years of our collaboration the “Chubu” program has been well renowned throughout Japan. JABSOM and I feel pride and gratitude for this wonderful program at Chubu and our long affiliation with Chubu. We are more than happy to continue this collaboration and support to Okinawa Chubu Program to educate Japanese youth in both “science and art of medicine”. Physician’s competencies must be mastered through this program in order to eventually serve and care many patients in Japan. Six competencies summarized by the ACGME: (1) Patient care and procedural skills, (2) Medical knowledge, (3) Practice-based learning and improvement, (4) Interpersonal and communication skills, (5) Professionalism, (6) System-based practice. “Education is never ending and ever evolving” and I believe Okinawa Chubu will move forward as a leading teaching hospital in Japan.
“Learn from yesterday, live for today, hope for tomorrow. The important thing is to keep moving forward.”
“My fellow Residents: ask not what your teachers or program can do for you, but ask what you can do for your patients and program.
“The future belongs to those who believe in the beauty of their dreams.”

ハワイ大学医学部のミッションは、医療・教育・研究機関として、あらゆる人々の健康向上、質の高 いかつ思いやりのある医療、医療界のリーダーとなるような教育、先駆的で多種多様な研究、様々な 医療者・医療組織の連携、アジア環太平洋の医療と教育支援、多民族多文化の融合を促進することで す。 ミッションの一環として深めてきたアジア環太平洋の各国各地域との関係、特に日本との協力支 援関係は非常に長く、その代表的な活動が2017年11月に50周年を迎えた沖縄県立中部病院・ハワイ 大学卒後臨床研修プログラムです。

医学教育・医師育成はDynamicに変革していますが、卒後研修トレーニング期間中に教育を受け学習すべき「Six Competencies: 6つの医師の能力」は基本的に変わっていません。6つの能力とは(1)「Patient care and procedural skills: 患者の診療と手技技術、(2)Medical Knowledge: 医療知識、(3)Practice-based learning and improvement: 臨床現場での学習と改善、(4)Interpersonal and communication skills: 対人能力とコミュニケーション能力、(5)Professionalism: プロフェッショナリズム、(6)System-based practice: 組織に基盤を置いた臨床活動」です。すなわち「医のサイエンスとアート」の修得で、沖縄中部病院はGeneral/Generalistの育成ということで一貫して日本の教育研修のリーダーです。

一方、医学教育・卒後研修のグローバル化の波は日本に到来して来ており、未来においては医療の数十年先を見据えて、特に医療者のサイエンスとアート能力修得のバランスが重要で、ことにITやAIの時代に向けて教育も進化すべきです。

この様な中部病院での教育研修の進化をハワイ大学医学部は全面的に支援します。逆に、教育は相互方向にあるべきで、ハワイ大学も中部病院や日本の優れた面を学んで行きたいと思います。最終的には(国際標準の)優れた教育・医師育成を通して、両国の国民に最良の医療を提供していきたいです。そして次世代の医療提供者にはみな、大きな「夢」を描いて前進して欲しいです。

“Active Learner – Passionate Teacher – Caring Physician – Great Dreamer 目指してEnjoy and Good Luck!!!”

2018年11月
町 淳二 Junji Machi
ハワイ大学医学部・外科・国際医療医学オフィス

ハワイ大学医学部長挨拶

Message from the John A. Burns School of Medicine, University of Hawaii

Jerris R. Hedges, MD, MMM. MS
Dean
Satoru Izutsu, PhD
Vice Dean

The collaboration between Chubu Hospital and the University of Hawaii began 48 years ago to increase the physician workforce in Okinawa. March 2015 will mark 48 years since the establishment of the University of Hawaii Postgraduate medical education program at Chubu Hospital. To date, the program has trained over 1,000 physicians of whom more than 50% remain in practice on Okinawa. Acceptance into the program is highly competitive with applicants from Okinawa, mainland Japan and other countries.
Each year, the University of Hawaii, School of Medicine, selects 10 consultants, mostly from Hawaii, to conduct training sessions at Chubu Hospital. The training sessions emphasize enhancement of the knowledge and skillset of trainees and attaining quality patient outcomes. The consultants complement the ongoing care supervised by Chubu-based clinical staff. The trainees are responsible for patient care under the guidance of Chubu-based clinical staff, stressing the inclusion of each trainee’s participation in clinical discussions and real-time decision-making. There is continual emphasis on improving clinical skills.
Upon completion of the Chubu-based program, graduates provide service coupled with Chubu Hospital on remote islands such as Miyako, Ishigaki, Tokashiki, Zamami and Daito.
Educational resources for Chubu Hospital based residents include a comprehensive medical library and audiovisual center that is open 24 hours a day and accessible over the Internet.
The library collection includes 72 English journals and 49 Japanese journals; in addition, all physicians at Chubu Hospital have electronic access to the most current medical information. Overall, the University of Hawaii Postgraduate medical education program at Chubu Hospital serves as a model for other Japanese postgraduate medical education programs.
Going into the future, the University of Hawaii, John A Burns School of Medicine, will continue to collaborate and partner with Okinawa Prefecture, as part of the school’s mission of promoting Pan-Pacific global health care and education.
The Okinawa experience will remain an outstanding example of professional cooperation to overcome challenges and adversities in caring for the health and well being of fellow human beings.